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新潟地方裁判所佐渡支部 昭和61年(ワ)5号 判決 1987年12月21日

新潟県<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

味岡申宰

右同

足立定夫

右訴訟復代理人弁護士

鈴木俊

大阪市<以下省略>

被告

株式会社タイセイ・コモディティ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

岩田喜好

主文

一  被告は、原告に対し、金二七四万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三九一万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因及び被告主張に対する認否

1  (大成商品、登録外務員、被告)

大成商品株式会社(代表取締役A、以下大成商品という。)は、昭和五八年二月当時、東京都港区<以下省略>に本店を置き、東京ゴム取引所に所属する商品取引員であり、新潟市<以下省略>に新潟支店を設置し、右商品取引業務に従事させるため、支店長B(以下Bという。)、営業次長C(以下Cという。)、営業主任D(以下Dという。)を登録外務員として雇傭していた。

大成商品は、その後商品先物取引業を営む株式会社タイセイに吸収合併(昭和五九年七月二日登記)され、同社は昭和六一年一二月八日株式会社タイセイ・コモディティと商号変更した。

2  (原告の経歴)

原告は、昭和五八年二月当時、長年勤務した新潟交通株式会社を退職し、雇用保険を受給して生活し、商品先物取引について、知識も経験も有しなかった。

3  (登録外務員の不法行為、大成商品の債務不履行)

(一) 大成商品のDは、昭和五八年一月二八日、原告方を訪れ、原告に対し、「東京ゴムを買えば一か月後には元金の倍もしくは八割位はもうかる。」等と述べ、商品先物取引の仕組等を説明しないで、ゴムの先物取引を執拗に勧誘し、同年二月三日、原告に対し、「絶対に損をさせない、このDが責任をとる。一か月も置けば元金の倍位になる。」等と述べ、原告が商品先物取引の知識及び経験がないことを知りながら、ゴムの先物取引により利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供し、かつ、その利益を保証して勧誘した。

(二) 原告は、Dの説明にだまされ、大成商品に対し、東京ゴム取引所におけるゴムの先物取引を委託することにし、昭和五八年二月三日東北電力株式会社(以下東北電力という。)の株式二五〇〇株を渡し、翌四日、Dの株式追加の執拗な勧告に応じ、全株式を三月末までに返すとの約束で東北電力の株式三五〇〇株を渡し、その際Dから「商品取引委託のしおり」等の説明書を受け取った。

(三) 原告は、Dの言葉を信じ、Dに先物取引を一任した。原告は、昭和五八年二月一〇日、新潟支店営業次長Cから利益金として三八万円の交付を受けた際も同人から「今月いっぱい置いて貰えば、次は七〇万円位持参できる。」旨言われた。しかし、原告は、右しおり等を読むうち、Dらの言葉に不信を持ち、昭和五八年二月一四日、大成商品新潟支店を訪れ、支店長BやCに対し、「自分は何もわからないので、Dを信用して株券を渡した。もし自分に損になるようになったら、取引を中止してほしい。」旨依頼したが、右両名は絶対大丈夫である旨述べた。そして原告は、売買の具体的な指示もしなかったところ、Dらは、新規取引者の保護育成期間内であるのに、当初から五〇枚(一枚五〇〇〇キログラム)の買建玉をし、短期間に仕切り、その後も無意味な日計り、売り直し等の反復売買をして手数料稼ぎをし、両建玉をした。

(四) 原告は、昭和五八年三月二九日、DやCに対し、預けた東北電力株式六〇〇〇株を返還するよう申し入れたが、Cらは、「今、決済すると二〇〇万円の損失が出る。元金の保証はない。四月下旬にあまり損をかけないように決済する。」と言われ、驚くとともに憤慨し、暫く経過を見ていたところ、昭和五八年五月一一日、Cから証拠金が不足しているので株式を売却して清算する旨言われ、同月一七日、Bから東北電力株式一〇〇〇株と同株式五〇〇〇株の売却金を用いて清算した後の残金四三万八二五〇円の返還を受けた。

(五) なおC、Dは、登録外務員として不適格者であるのに、大成商品代表者、支店長はこれを知り、または知りえたのに雇傭していた。すなわち、Cは、従前新潟市に本店を置き、金の先物取引を営む富士貿易株式会社の設立発起人であり、その後山形市に本店を置く富士貿易株式会社の取締役であった。右新潟市の富士貿易株式会社の幹部は、昭和五五年三月ころ架空取引の詐欺行為により検挙され、その後刑事罰を受けた。Dは、海外先物取引業者の三洋貿易株式会社の営業員として勤務した際、委託者に対し自己の名義を使用させた。C、Dは、大成商品に勤務前、海外先物取引業者のウエイクロビン新潟株式会社に勤務していた。

(六) 右Dらの行為は、登録外務員に課せられた注意義務を著しく怠り、故意もしくは過失により原告に損害を及ぼす不法行為に該当し、大成商品は使用者として、被用者のなした行為に基づき原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

大成商品は、商品取引員として、委託者の利益のために商品取引法、取引所受託契約準則、商品取引員団体の自主規則を遵守すべき債務があるが、使用人であるDらはこれを怠ったから、債務不履行による賠償責任がある。

被告は、大成商品の右賠償責任を承継した。

4  被告主張4項(商品先物取引受託契約の履行)の事実は争う。その経過は、請求原因3項のとおりである。

5  被告主張5項(過失相殺)の事実は争う。

6  (損害)

(一) 原告は、大成商品に東北電力の株式六〇〇〇株を預けた。右は、委託証拠金充用有価証券として利用され、総手仕舞の結果、五〇〇〇株が売却処分され、諸費用を控除して四三七万八二五〇円に換金され、原告の帳尻差損金に一部充用され、原告は、昭和五八年五月一六日右の残金の四三万八二五〇円と東北電力の株式一〇〇〇株の返還を受けた。原告は、昭和五八年二月一〇日、三八万円を受領していたから、右換金額から受領額合計を控除した三五六万円の損害を受けた。

(二) 原告は、原告訴訟代理人に本訴提起を委任し、弁護士費用として三五万六〇〇〇円を支払うことを約し、同額の損害を受けた。

(三) 原告は、大成商品に対し、昭和五八年一二月七日到達の書面で右損害金の支払請求をした。

7  よって、原告は被告に対し、不法行為または債務不履行を事由に、損害金合計三九一万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1項(大成商品、登録外務員、被告)の事実は認める。

2  請求原因2項(原告の経歴)の事実は知らない。

3  請求原因3項(登録外務員の不法行為、大成商品の債務不履行)の事実は争う。その経過は、4項のとおりである。

4  被告の主張(商品先物取引受託契約の履行)

(一) 大成商品の登録外務員は、原告に対し、ゴムの先物取引の仕組を説明し、「商品取引委託のしおり」、「商品取引を始める方へ」、「商品取引ガイド」と題するパンフレットを交付し、相場値動きを表すグラフを示し、利益の取得と損失の発生、委託証拠金等を説明して勧誘した。登録外務員は、昭和五八年二月三日、原告に対し、承諾書及び受託契約準則を交付し、所定事項の記入や署名押印をえて、原告と東京ゴム取引所でのゴム先物取引の委託契約を締結し、原告から委託証拠金に充用するため東北電力の株式六〇〇〇株の交付を受けた。

(二) 登録外務員は、昭和五八年二月三日、原告から同日後場一、二節の成行値の買付委託の注文を受け、大成商品は買付をし、その後も原告から売付または買付の指示を受け、別紙取引表のとおり売付買付をし、その都度原告に対し、「売付買付報告書及び精算書」と題する書面を郵送した。そして、大成商品は、昭和五八年二月一〇日、原告に対し、取引によって生じた差引益金三八万円を原告申し出に従い支払った。大成商品は、毎月二〇日に「残高照合書」、「委託証拠金、差損益金並びに建玉承認書」と題する書面を郵送し、原告はこれを承認して日付、住所、氏名を記載押印して返送する等した。

(三) 大成商品は、昭和五八年五月一二日、原告の指示により買建玉を仕切って取引を終了し、三九四万円の差損勘定となった。大成商品は、預り中の委託証拠金充用有価証券である東北電力株式六〇〇〇株のうち五〇〇〇株を証券会社に委託して売却し、諸費用、税金を控除した手取金四三七万八二五〇円の一部で右差引損金を弁済し、残余金四三万八二五〇円と東北電力株式一〇〇〇株を、右株式売買計算書の写等とともに交付した。

(四) 右のとおり大成商品は、原告に対し、ゴムの先物取引の仕組と相場の値動きの状況を説明し、先物取引による利益と損失発生の可能性を知った原告とゴム先物取引委託契約を締結し、原告の売付及び買付の注文の指示を受け、売買したものである。登録外務員には、不法行為に該当する事由はなく、また、大成商品には受託者として債務不履行に該当する事由はない。

5  被告の主張(過失相殺)

原告には、商品取引委託者として多大な過失があるから損害賠償の責任及び金額について、過失相殺すべきである。

6  請求原因6項(損害)中、(一)の事実経過は認めるが、原告に三五六万円の損失が発生したことは否認する、同(二)(三)の事実は知らない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に各記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  請求原因1項について

請求原因1項(大成商品、登録外務員、被告)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2項について

いずれも成立に争いがない甲第二九ないし第三三号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、尋常高等小学校を経て、昭和一四年五月新潟合同自動車株式会社に入社し、昭和一八年合併により新潟交通株式会社となった後も、自動車修理工として働き、昭和五七年三月末日、退職金約一七三〇万円を受け取り退職し、翌五八年三月末日まで月一七万円余の雇用保険を受給していた、原告は、従前東北電力、新潟交通、川崎製鉄、三井造船の株式を取得し、野村證券の第一オープンの投資信託をしたことがあるが、商品の先物取引の経験はなく、その仕組等についてほとんど知識を有していなかったものと認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

三  原告のゴム先物取引の経過について

いずれも成立に争いのない甲第九号証、第一一ないし第一三号証、第一五ないし第一七号証、第二六号証、第二七号証、乙第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第七号証の一、二、第八号証、第九号証、第七八ないし第八〇号証、成立に争いのない甲第一〇号証の一及び原告本人尋問の結果成立の認められる甲第一〇号証の二、原告本人尋問の結果いずれも成立の認められる甲第二五号証、第三四号証(但、原告訴訟代理人作成部分は成立に争いがない。)、第三六号証、証人Bの証言によりいずれも成立の認められる乙第一号証、第二号証、第一〇ないし第七七号証、第八四号証並びに甲第一号証、原告本人尋問の結果の一部分と証人Bの証言の一部分によれば、次の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果部分と証人Bの証言部分は採用できない。

1  大成商品の登録外務員Dは、昭和五八年一月二八日ころ、原告方を訪れ、原告に対し、「東京ゴム取引所でゴムを買っておけば倍から八割位もうかる。」等と述べ、ゴムの先物取引をするようにすすめた。なお、Dは従前海外先物取引をする三洋貿易株式会社、ウエイクロビン新潟株式会社に勤務したことがあった。

2  Dは、昭和五八年二月二日と三日の両日、原告方を訪れ、原告の所持する東北電力の株式を委託証拠金に充用してゴムの先物取引をするように勧誘した。原告は、商品先物取引の仕組、委託証拠金等について十分理解できないまま、「もうかる、損はさせない、保証する。」等の言葉にひかれ、ゴムの先物取引を大成商品に委託することにし、東北電力の株式を、三五〇〇株と二五〇〇株と二回にわけて交付した。Dは、昭和五八年二月三日ころ、原告に対し、「商品取引所受託契約準則」や「商品取引委託のしおり」等を交付した。

Dは、原告に対する勧誘を通じ、原告の職業、資産、収入等を尋ね、原告には商品先物取引の経験がなく、商品取引の仕組、投機性、東京ゴム取引所のゴムの値動き状況を知らないことを知った。Dは、原告の買付の具体的指示を得ないで、昭和五八年二月三日後場一節に七限月のもの二〇枚、同日後場二節に七限月のもの三〇枚の新規買建玉(合計取引高四九三万二〇〇〇円)をした。そして、Dは、上司に対し、原告は株式の現金取引、投資信託の経験はあり、東北電力等の証券四〇〇〇万円、定期預金二〇〇〇万円相当の資産を有し、月収五〇万円、年収八〇〇万円を得、商品先物取引適格者で、取引の動機を「最近のゴム相場を見ていて納得できる値段なので買っていきたい。」等と報告した。

3  Dは、別紙取引表のとおり昭和五八年二月七日前場一節に右買建玉を売って仕切り、同日前場二節に六限月を五〇枚買建玉し、同日後場二節にこれを仕切り、同日後場二節に七限月を五〇枚買建玉し、翌八日前場一節にこれを仕切る等して取引を続けた。Dの上司である新潟支店営業次長Cや支店長Bは、Dの売買取引に指示等していた。大成商品は、取引の都度、原告に対し、売付買付報告書及び精算書を送付した。

4  大成商品は、その間の昭和五八年二月八日、手数料を控除した差引益金六八万円の中から、原告に対し、三八万円を交付することにし、Cは同月一〇日原告方を訪れ、原告に交付した。原告は、その際Cに対し、商品先物取引の仕組が十分理解できず、提供した東北電力株式が心配となり、いったんは取引の中止と株式返還を求めたが、Cの「任せてほしい。」等の言葉に、引続き取引を続けることにした。なお、Cは、従前金の先物取引に関与し、前記ウエイクロビン新潟株式会社に勤務していた。

原告は、昭和五八年二月一四日、上京する折、大成商品新潟支店を訪れ、BやCと会い、前同様商品取引の不安を訴えたが、Bらの説明を聞き、一応納得して、同月一二日段階の建玉の状況と差引損金一〇万円が生じている旨の委託証拠金、差損益金並びに建玉承認証に署名押印し、引続きDらにゴム先物取引を任せることにした。

5  Dは、その後も原告の具体的な指示を受けることなく取引表のとおり新規建玉、仕切をし、大成商品は、売付買付報告書及び精算書を送付し、昭和五八年二月二二日付残高照合書(値洗損金七五万円、差引損金八四万五〇〇〇円)を送付した。原告は、右送付される売付買付報告書及び精算書等を受領したが、大成商品本社に対し、先物取引に関して異議を述べず、大成商品から送付された昭和五八年三月一〇日段階の委託証拠金、差損益金並びに建玉承認証に、署名押印して返送した。

6  しかし、原告は、その後右送付される売付買付報告書及び精算書が多くあり、その取引回数の多さと委託手数料の累計額が高額であることに驚き、不信を持つようになった。原告は、昭和五八年三月二四日ころ、同月二三日付の残高照合書の値洗損金二二七万円について、Dにただした。原告は、昭和五八年三月下旬、Dに対し、電話で取引の中止と東北電力の株式返還を求め、同日来訪したCに対しても同様求めた。Cは、これに対し、「今精算すると二〇〇万円位の差引損金が出る。もう暫く様子を見てほしい。」等と説明した。原告は、Cがその場の説明により、預けた東北電力の株式が商品取引の委託証拠金充用証券として利用され、売買取引の状況により差損金に充当され、ときには証拠金を追加する必要があることを明確に知ったが、右値洗状況から暫く様子を見ることにした。

7  Dは、昭和五八年四月二七日前場一節に、同年三月一七日後場一節の八限月一〇枚の買建玉を仕切り、同年四月二七日後場一節に、同年三月二四日後場二節の七限月一〇枚の買建玉を仕切った。Dは、昭和五八年四月二八日前場二節に、同年二月二一日後場二節七限月一〇枚の売建玉を仕切り、委託手数料を含め差引損金二一三万八〇〇〇円が生じた。原告は、昭和五八年四月三〇日ころ、商品取引の総手仕舞と東北電力の株式の返還を求めた。一方Dは、昭和五八年四月三〇日前場一節に、同年三月七日前場二節八限月の一〇枚の売建玉を仕切る(差引損金八九万三〇〇〇円)とともに、同日前場一節で七限月二〇枚の買建玉をした。

しかし、右買建玉は、昭和五八年五月の値動状況から、相当大きな差引損金が生じることから原告に連絡のうえ、同年五月一二日後場一節に仕切り、差引損金一一二万六〇〇〇円が生じた。そして総手仕舞の結果、三九四万円の差引損金が生じたため、大成商品は、委託証拠金充用証券の東北電力株式のうち五〇〇〇株を証券会社に委託して四四五万円で売却して貰い、手数料、取引税が控除された四三七万八二五〇円から、右差引損金を支払った。Bは、昭和五八年五月一六日、原告方を訪れ、原告に対し、残金の四三万八二五〇円と東北電力株式一〇〇〇株を交付する等した。

以上の事実が認められる。

なお、原告本人は、本人尋問において、「Dは昭和五八年二月三日昼過ぎから同日午後四時まで勧誘し、原告は同日東北電力株式二五〇〇株を渡した。Dは、翌四日再び訪れ、原告は三五〇〇株を渡し、その際Dからパンフレット等を受け取った。」旨供述する。しかし、前記乙第一一号証、第一三号証によれば、Dは昭和五八年二月三日後場一節、後場二節で新規建玉をしていること、乙第八四号証の顧客カード冒頭欄には「五八年二月二日」と記載されていることに照らし、原告の月日に関する供述部分は未だ採用できない。次に、原告は、Dの勧誘文言について、「これから雪が降り、スノータイヤの売り時期になるから、東京ゴムという会社の収入があがるので、同社のタイヤみたいな製品を世話してやる、東北電力の株券を担保に買うと倍から八割位もうかる。」等と言われた旨供述する。しかし、昭和五八年一月末や二月初旬の時点において、今後スノータイヤの売上が上昇し、収益が向上するとはたやすくいえないこと、(登録外務員において、先物取引の商品を意図的にあいまいに供述するとも窺われないことに照らし、)右供述部分は未だ採用できない。また、原告は、商品先物取引について、「Dから渡されたパンフレット類を読み、Dの説明とは異なるものに関与したことはわかったが、その後も仕組等は全くわからなかった。」旨供述する。しかし、前記乙第八号証によれば、原告は、昭和五八年二月一〇日差引益金三八万円を受領したこと、乙第一一ないし第七四号証の売付買付報告書及び精算書を受領し、異議を申し立てていないこと、乙第七八ないし第八〇号証によれば、原告は委託証拠金、差損益金並びに建玉承認証に署名押印していることに照らし、右供述部分は採用できない。

他方、証人Bは、Dは原告に対し、商表取引の仕組や東京ゴム取引所におけるゴムの相場状況を説明し、原告の理解を得たうえ、原告の建玉、仕切の具体的な指示を得て、売買した旨証言する。しかし、前認定のとおり原告はこれまで商品取引の経験がないこと、取引表によれば、委託契約当日の昭和五八年二月三日に合計五〇枚の買建玉をし、その後短期間の間に建玉、仕切を繰り返し、新規建玉を同日中に仕切ったもの(番号3、5、9、12、14、25、29)、翌日に仕切ったもの(番号4、10、11、15、22、23)、三日目に仕切ったもの(番号6、24、26、28、31)があること、値洗損金が相当額にのぼる昭和五八年四月三〇日の段階で新規に二〇枚の買建玉をしているが、これらの売買は、ゴムの相場及び商品取引に精通しているものでなければ困難であることに照らし、右証言は採用できない。

四  被告の賠償責任について

三項認定の事実を前提に、大成商品の賠償責任を検討する。

まず、〔Dの勧誘行為〕についてみるに、前1、2項認定事実によれば、未だ商品取引法九四条一号の利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的な判断を提供して勧誘したり同条二号の利益を保証して勧誘したとは未だ認定判断できず、取引上許された域を超えないものと見る余地がある。しかし、原告は、商品先物取引の経験がなく、商品取引の仕組、投機性を十分理解しておらず、Dは、右事情を知っていたから、原告に対し商品先物取引の仕組や投機性を十分説明すべきであるのにこれをしていない。またDは、原告が新潟交通株式会社を退職して雇用保険を受給していることを容易に知りうるし、その結果原告は株式の配当や定期預金の利息等を加算しても、その収入等から商品先物適格者であるか疑問の点があるのに、上司に対し、前認定のとおり新潟交通株式会社に勤務し、利息等をあわせ月収五〇万円、年収八〇〇万円の収入を得て、ゴム相場にくわしいような報告をし、その結果大成商品の総括責任者による新規委託者保護管理のための審査指導を困難にした。そしてDは、原告が東京ゴム取引所のゴム相場の状況を十分知らないことを知っていたのに、右相場状況を説明して原告から売付買付の指示を受けようとせず、一任売買をすすめたものである。これら諸点を考慮すると、Dは大成商品の登録外務員として新規委託者の保護管理に相当欠けるもので、後記原告の過失を考慮しても、債務不履行の責任は免れない。

次に、Dの〔ゴム売買行為〕についてみる。Dは、前認定のとおり原告の売付買付の具体的な指示を受けず、一任されて売買したものであるから、商品取引法九四条四号、九六条、受託契約準則一八条の一任売買等の禁止に違反している。次に、Dは、取引開始当初から五〇枚の買建玉をし、その後ほぼ継続して五〇枚の建玉をしている。右は、商品取引員の受託業務の改善に関する協定による新規委託者保護管理規則において、新規委託者については、売買取引開始後三か月間を保護育成期間とし、建玉合計数を二〇枚以内とする社内規則に違反している。また、Dは、取引期間中建玉を短期間に仕切り、同時または短期間後に建玉し、同一計算区域内に手数料幅(なお、全取引の委託手数料合計額四四二万五〇〇〇円)を考慮していないとも窺われる売買を繰り返し、異なる限月ではあるが両建玉(因果玉の放置)をしている。これらは、商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項である無意味な反復売買の禁止、両建玉の禁止に違反している。なお、Dは、昭和五八年三月下旬には、原告から商品取引の中止と東北電力の株式返還を求められたにもかかわらず、同年二月二一日後場二節七限月一〇枚の売建玉を値段の相当あがった同年四月二八日前場二節に仕切り、二一三万八〇〇〇円の差引損金を生じさせ、同年三月七日前場二節八限月一〇枚の売建玉を、同じく値段の上った同年四月三〇日前場一節に仕切り八九万三〇〇〇円の差引損金を生じさせ、同年四月三〇日前場一節に七限月二〇枚を買建玉し、同年五月一二日後場一節に仕切り、一一二万六〇〇〇円の差引損金を生じさせている。右Dの売買行為は、それ自体自己の相場感への過信の余り、原告に対し損金を及ぼし、あるいは、原告に多大な損失を被らせる結果になってもやむを得ないものとして行なわれたものとは断ずることはできないとしても、右売買方法の相当性については疑問なしとしない。右指摘の諸点を考えると、Dの一連の売買行為は、大成商品の登録外務員として新規委託者を保護育成すべき立場にありながら、故意または過失をもって原告に対し損害を及ぼしたものとは未だ断ぜられないが、新規委託者保護育成に反し、一任売買の禁止に反するとともに無意味な反復売買、両建玉をした落度があり、後記原告の過失を考慮しても、大成商品の登録外務員として債務不履行があったというべきである。

なお、Dの上司であるCやBにおいても、前認定の経過からすれば、原告が新規委託者であることを知りながら、Dの勧誘行為後の売買取引を容認していたものといわざるをえないものである。

以上によれば、原告訴訟代理人主張のその余の点(D、Cの登録外務員の不適格)に触れるまでもなく、大成商品は、債務不履行に基づき、原告に生じた相当因果関係のある損害を賠償すべき責任があり、大成商品を承継した被告も同様である。

五  原告の損害と過失相殺について

前認定のとおり請求原因5項(一)の事実が認められ、昭和五八年二月二三日の一二万円の入金分はさておき、右三五六万円は相当因果関係のある損害と判断できる。

次に原告の過失についてみる。商品先物取引は投機性が高く、相応の知識か経験もなくこれを行うとき、損害を被ることは公知の事実である。原告は、これまで商品先物取引の経験もなく、その知識も十分でなかったのに、自ら知識を得ながら慎重に取り組むことなく、Dらに売買を一任し、取引の都度送付された売付買付報告書及び精算書に異議を申し立てず、委託証拠金、差損益金並びに建玉承認証についても格別の異議をとどめなかったから、原告にも過失があったものというべきである。右の点、その他本件にあらわれた原告、大成商品側の諸事情を考慮し、原告の賠償金額を定めるにおいて、原告の過失を三割とし、原告の被った右損害からその割合分を控除するのが相当である。そうすると、賠償しうべき金額は、二四九万二〇〇〇円となる。

訴訟の経緯及び弁論の全趣旨によれば、請求原因5項(二)の事実が推認され、これを覆すに足る証拠はない。ところで、原告は、商品取引に基づく損害の賠償を求めて、原告訴訟代理人らに本訴提起を委任したものと窺われ、事案の難易、原告の過失割合による直接の損害金の請求額と認容額等を考慮すると、相当因果関係のある損害額は、二五万円と認めるのが相当である。

成立に争いのない甲第二六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告から委任された原告訴訟代理人は、昭和五八年一二月七日ころ到達した書面をもって、大成商品に対し損害賠償の請求をしたものと推認され、右推認を覆すに足りる証拠はない。

六  結び

以上によれば、原告の債務不履行に基づく本訴請求は、右二四九万二〇〇〇円及び二五万円の合計二七四万二〇〇〇円及びこれに対する賠償請求の日の翌日である昭和五八年一二月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よって、原告の本訴請求は、右の限度で認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田秀樹)

<以下省略>

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